一寸先の真っ暗闇

『一寸先は闇』ってのは本当にあるものだ。いや、それは暗闇どころか真っ暗闇だったのだ。

その日、ボクはエアポートリーフで散々いい波に乗り、少々気を良くしていた。ロコたちからも「ケイ、いい波いっぱい乗ってたね」と冷やかされていた。

その前日まで仕事に追われていたためにたがが外れてしまったのかもしれない。調子よくビールを喉に通し、数時間後には出されるままに梅酒に手を伸ばし、さらにはウィスキーを飲み始めた頃には意識が朦朧としロレツも怪しくなってきていた。

オレンジ色に煌めく海を最後にボクの記憶は渦に吸い込まれるように消えてしまった。ボクは気を失ってしまったのだ。

目を覚ますと青白い天井が忙しなく動いていた。ボクは何かに乗せられてどこかに運ばれているようだった。その動き目がまわり、再び重たい闇がボクを飲み込んでいった。

そして次に意識を戻すと先ほどまで一緒に飲んでいた仲間たちがボクを上から覗き込んでいた。そこでようやくボクは病院に運び込まれたことに気がついたのだった。

自分の身に何が起こったかはわからないが、顎がしびれていた。

「オマエ、覚えてねーの?」

友達の一人が怪訝そうな表情で尋ねてきた。「何があったの?」と恐る恐る尋ねると、「ガゼボーから落ちたんだよ」と呆れるように言った。

ガゼボーとはバリニーズたちが暑さを避けてダラダラと過ごすための高床式の休息場のことで、ボクたちが酒を飲んでいたガゼボーは通常のものよりかなり高いものだった。

「まじで?」

「まじだよ」

何個もの目がボクのことを何か疑わしいものでも見るような眼差しで眺めていた。どうやらガゼボーの上に立った状態から真っ逆さまに口から落ちたようで、3時間ほど気を失っていたということだった。

「名前は?」

「子供の名前は?」

「バリに来て何年になる?」

などという人を小馬鹿にしたような質問に答えると皆の表情に安堵の色が浮かんだ。

幸運なことに脳には異常がなかったが、ボクの前歯は唇の下側を見事に貫通し無残にも折れてしまっていた。おかげで口の内側も含めて15針ほど縫う羽目になってしまった。

 妻と娘が後から病院に駆けつけてくれたのは嬉しかったが、やはり目を直視することができなかった。全くボクは何をやっているんだ、と羞恥の念がボンヤリとした頭に浮かんでは気持ちを暗くしていった。

そして仲間たちにも大きな迷惑をかけてしまったのは明白だった。ボクの記憶によるとまだ調子よく酒を飲んでいたのは太陽の勢いが衰え始めた夕暮れどきだったはずだ。病院のベッドから妻に時間を尋ねると「10時だよ。私たちゴハンも食べてないんだからね」と早速小言をこぼされた。ボクが意識を失っていた間に何が起きていたのかを想像するだけでいたたまれない気持ちになった。

みんな、すまん・・・

何度もそう言うボクに「いいからいいから、とにかくゆっくり休んで」と優しい言葉をかけてくれた友人たち。虚ろな意識の中で何度詫びながら妻の車に倒れるよう乗り込んだ。

 あれから2日が経った。

現場に居合わせた友人たちに詫びとお礼を言いたくて電話をかけると異口同音に「その程度で済んである意味ラッキーだったよ」と言われた。何しろ1.5mほどの高さのガゼボーに立ち上がった状態から足を滑らせてコンクリートの地面に顔から直撃したのだ。ちょっと打ち所が悪ければ命にも関わるような大惨事になっていたかもしれない。前歯が折れて唇が2倍以上に膨れ上がる程度で済んだのだからある意味不幸中の幸いと言ってもいいのかもしれなかった。

しかしそうはいってもボクが受けた衝撃は想像以上だったらしく、2日経った今でもボクの頭は鉛でも押し込められたように重たく感じられる。本を読み始めても10分と持たずに眠気が襲ってくる。まるで使い物にならなくなったパソコンのように起動してしばらくするとすぐに電源が落ちてしまうのだ。

 どうやら今のボクには少しの休養と、自分を見つめ直す時間が必要なようだ。そろそろ生き方を変えないとダメだよ、と大きな力から叱責されているような気がしてならない。

反省内省そして自制。

有本圭

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