約3ヶ月ぶりに娘バリ子をサーフィンに連れていった。ちょっと間を空けすぎてしまったようだ。少々苦労することになってしまったのだ。
海が一望できる駐車場に車をとめ、バリ子と波チェックするとアウトサイドからアタマくらいの波がブレイクしていた。バリ子はその波を目にした瞬間、「なんかキモチ悪い〜」と顔をしかめた。つい先ほどまで車でひょうきんなダンスに合わせて歌を唄っていたのに。明らかにビビっている様子だった。
「大丈夫だよ、インサイドは。ほらっ、見てみな。ビギナーもいっぱい入っているでしょ」とスクール生が波に乗っている波打際を指さした。
「でもバリ子、キモチ悪いのっ」と少し怒るようにボクを睨んだ。
6月、7月は波の大きい日が多かったため無理に海へ連れて行くことをしなかった。それこそ恐怖心が芽生えてしまったらこれまでのアレコレがすべて水の泡となってしまう。しかも今年の乾季のバリ島は水温が非常に低く、子供が海に入るには少々厳しそうに思えた。そんなこんなでズルズルと海から遠ざかってしまっていたのだ。
「そっか。じゃあビーチで遊ぼうか。Yちゃんも来てるんだし」
Yちゃんはバリ子が一緒にサーフィンをしているお友達だ。
すると「うんっ!」とわかりやすく笑顔が戻った。
困ったぞ。
やはりサーフィンはある程度コンスタントにやらせておかないと気持ちが離れてしまう。自分自身に置き換えてみてもそうなのだ。ボクの場合だと1ヶ月も海から離れるとサーフィンをするのが億劫になってしまう。しかもブランク明けのサーフィンは著しく調子が悪いわけで、もうこのままやめてしまおうかという考えすら頭をよぎる。
バリ子のサーフィンに対するモチベーションが下がってしまったのはごく自然のことなのかもしれない。
Yちゃんらと1時間ほどビーチで遊んでいたが、Yちゃんがお父さんとサーフィンをすることになると「バリ子もやるっ」と言い出した。
おっし!と内心では拳を握ったが、なるべく喜びの表情は出さないようにして「キモチ悪いのは治ったの?」と彼女の気持ちを確かめた。
バリ子の手を引きながら海に入っていったが、沖で弾ける大きな波を目にするとその小さな手を強く引いた。
「どうした?」とボクが聞くと「こわい〜」と不安げな表情を浮かべた。
「オトーがいるから大丈夫だよ」と笑顔を向けてみるも彼女の固い表情が崩れることはなかった。
これはまずいことになったぞ。ボクは焦りつつもインサイドの小さな白波に彼女を乗せてみた。しかしサーフボードの上に立ち上がることすらできなくなっていた。
何本波に乗せてみても結果は同じでさらに恐怖心が大きくなっている様子だった。
そこでボクはすかさず方針を変え、「よし、じゃあボディサーフィンするか?」と聞いてみると「うんっ」と少しだけ笑顔が戻った。実はバリ子はサーフィンよりボディサーフィンの方が好きだったりするのだ。
サーフボードをビーチに置くと勢いよく海へと走り出すバリ子の姿を見て、つくづく子どものペースに合わせながらやらなくてはならないことを思い知らされた。無理矢理サーフィンをやらせようとしてもなかなかうまくいかないものだ。基本は子供の好きにさせてやればいい。何しろ彼女にとってサーフィンはあくまでも遊びなのだから。
30分くらいボディサーフィンをすると「もう一回サーフィンする」と意志のこもった眼差しをボクに向けてきた。きっと心も体もほぐれたのだろう。
海に慣れ、恐怖心が薄れたせいで以前のように自分で波をとらえ、サーフボードの上に立ち上がることができるようになっていた。
子どもにサーフィンを教えることでたくさんの気づきや学びがある。
もしかするとサーフィンを教えられているのはボクの方なのかもしれない。
有本圭
2018年12月31日。除夜の鐘がなるその時に、チャンネル登録が10000人を超えない場合、ボクはマッチを売りに街に出ます。
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