不可侵条約締結の巻

今日はサーフィンとは全く関係のない話だ。

サーフィン以外はまったく興味がないという方面の方はここでお別れとなる。

話は相当にくだらない方向へ向かっていくのでマジメ方面の方たちもこの辺で失礼させていただかなければならない。

しかしながらボクにとっては、いや、ボクら夫婦のモンダイとしてこの先の平和維持に向けての非常に重たい決断が下されたということに関してだけは先に述べておかなければならない。

 

  •   ※  ※

 

ボクは音に非常に敏感な人間である。

仕事をしながら音楽をかける人がいるが、正直に告白するとそういった人は天才なのではないかと思ってしまう。

意識が音に引っ張られて集中できなくなってしまうのだ。

逆にこういうこともある。

自分が好みのメロディの音楽の場合、その曲を1度聞くとほぼ忘れることがない。2度目に聞くときにはもうすっかりリズムをとりながらサビは歌えていたりする。

そのことで家族方面の人々から驚かれることが過去に度々あった。

そんなボクにとって非常に不快極まりない『音』がある。

それは何を隠そう換気扇の音だ。

あのまるで温かみのない、冷め切った薄暗い不吉な不気味音。

都会のホテルなどに泊まると「さあ寝るか」と電気を消し寝るポジションを整え終わった瞬間にこの換気扇の音が静かにしかし確実に不気味な音を鳴らしていたりする。

そうなるともちろんスイッチを探して消しにかかるのだが、都会のホテルでは窓があまり空かないため、換気扇は厳しい管理統制下のもとで休む間も無く365日回り続けるというシステムが敷かれているよのでなす術もなかったりする。

とにかくボクは換気扇の音が嫌いなのである。

 

そしてボクにはバリで一つ屋根の下で暮している妻がいる。

通称ド天然嫁と呼んでいる。

つい最近ではボクがプールに入ろうと水着に着替えゴーグルを用意し妻と何らかの会話を交わしながら玄関を出ようとすると、

「えっ、けいくんどこ行くの?」

と驚いたような声を出した。

ボクはその場で固まった。

えっ? この格好で?

しかもさっき「ゴーグルどこだっけ?」とボクが尋ねたことからちょっとした小競り合いが勃発したではないか。

ボクは振り向き、手にぶら下がっていたゴーグルを胸のあたりまで上げ、

「プールでしょ」

とできるだけ冷めた表情でじっと彼女を見つめた。

「あ、そっかっ」と言いつつ自分に爆笑するというそういった方面の人なのである。

しかし彼女はド天然のくせに潔癖主義だったりするので例えばカビなどは絶対に許されない存在となってくる。

カビは湿気下で育つ菌なので、湿気の多い浴室などに多く見られるものだ。

そんな浴室のカビを撃退するには。

そう。

あいつ。

あの不気味な音を鳴り響かす換気扇なのだ。

 

彼女の姿勢は一貫して365日24時間体制で換気扇を回しておくという確固たる信念がある。

一方、ボクはといえばもちろんカビは困るけど、『音が与える精神医学』といった観点から特に寝るときだけでも換気扇は止めるべきである、という立場を取っている。

そのような日常のタタカイは果てしなく続いていった。

 

しかしそんなある日、妻からの提言により実に10年ぶりに停戦を迎えることになった。

お互い換気扇をつけるも消すも自由だからお互いに文句を言わずに思う存分やろうではないかという『換気扇不可侵条約』が締結されることになったのだ。

この条約が結ばれたことによってとうとう我が家に平和が戻ったのだ。

 

相変わらず二人で換気扇をつけたり消したりしあっているわけなのだが、そこに不快感はなくなった。消せばいいやと思うだけである。つけたい気持ちもわかるわけだし。

ようやくそんな初歩的なことに気づき始めたというアホなふたりさしてはアホなボクということなのである。

 

人同士でどうしてもぶつかってしまう事柄に関しては『不可侵』という姿勢が平和をもたらすことを知った。

そこにはお互いを理解し認め合うという根本が含まれていなくてはならない。

夫婦とは人生勉強である。