自分でいること

良い波でサーフィンをしたいというのはサーファーであれば当然の欲求である。

良い車に乗りたいというのはビジネスマンの欲求なのだろうか。

豊かな暮らしをしたい。

良い家に住みたい、子供を良い学校に行かせたい。

 

誰にでも欲求はある。

欲求はその人を走らせるガソリンになる。

なんの欲求もない人は怠惰か悟りの人のどちらかだろう。

ん? 怠惰と悟りは表裏一体なのか?

そこの追求はまた今度にしておこう。

 

人は案外自分の欲求に気づいていないものだ。過去の自分がそう語りかけている。

ボクはかつて日本で会社経営していた。その頃ボクは「社長、シャチョー」と呼ばれていた。

ボクは『有本圭』という自分の名前を失って『社長』という名で生きていた。取引先でも銀行でも会社でも飲み会でもボクは『社長』と呼ばれていた。会社では社長と呼ばないでくれと頼んだこともあったが、社員に示しがつかないという理由で却下された。

 

ボクの名は『社長』になり、自分を失った。

日々の暮らしは会社にいくら金を残すかに注がれるようになり、目標はベンツの新車に乗ることになった。

今も昔も車に全く興味がないはずのボクがベンツに乗ることを夢みたのだ。

パンフレットをもらいにベンツのディーラーを訪れた時にはいかにも上品そうなセールスマンもボクのことを『社長』と呼んだ。

振り返ってみても恐ろしいことだと思う。

ベンツになんてこれっぽっちも興味がなかったのに。

立場が変わると自分も変わってしまうのか。

いや、完全に自分を見失っていた。

ベンツより断然ハイエースでしょ、というかつて趣向は、有本圭という名前とともにどこかに消えてしまったのだった。

 

海の目の前に事務所を構えていたにも関わらず、ほとんどサーフィンをしない人になってしまっていた。

とにかく毎日がめまぐるしく、会社という船を操縦することが何を差し置いても優先された。

ある日、鏡に映し出された自分の姿を眺めながら自分が誤った道を歩んでしまっているのではないかと疑念を持ちはじめた。

気がつくと背中は小さくなり腹の肉はダラシなくたるんでいた。

取り返しのつかない過ちを犯しているのではないかという思いは日に日に胸の内で膨らんでいった。

会社をある程度大きくしていたので振り出しに戻すことは容易ではなかったが自分を取り戻すためにはやり直す他ないと腹をくくった。

ボクは自分らしく『社長』になることができなかったのだ。

 

会社をたたみ、自分が本当に欲しいものを見つめなおした。

その答えがバリ島にあるはずだと移住を決意した。

あれから6年の月日が流れた。

そろそろ自分を見つめ直す時期に差し掛かってきているようだ。

ボクの欲しいものはこの島にあったのだろうか。

ボクはボクでいられているのだろうか。

雨のバリ島でそんなことを考えていた。

有本圭

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